認知症施策推進大綱とは?
日本はこれから「高齢化社会」から「高齢社会」となり、2025年に団塊世代が75歳以上になる時代を迎えます。これは世界にも類を見ない超高齢社会であり、日本の人口のうち2200万人(日本の人口の4人に1人)が75歳以上という時代になります。そのうち認知症患者は700万人で、65歳以上の人の5人に1人が認知症になると予測されているのです。
なお、2018年では認知症の人の人数は500万人を突破し、65歳以上の7人に1人が認知症と言われています。今以上に高齢化と認知症のひとが増えていき、そうした人たちを支える力と財政もまた一層不足していくことになると予測されています。
そうした中で、政府は今回の大綱よりも前に決定した2012年の「オレンジプラン」、2015年「新オレンジプラン」を策定し、認知症の高齢者等にやさしい地域づくりに向けてスタートしました。この新オレンジプランにより、厚生省のもとで以前より養成されていた「認知症サポーター」が取り上げられ、また「認知症カフェ」などが創設され、社会の認知症対策の基盤ひとつになりつつあります。
2019年の認知症施策推進大綱では、この新オレンジプランを踏まえてさらに発展させるために、2025年までの高齢化社会への対策として、「共生」と「予防」のテーマのもと5つの施策を決定しました。
2019年大綱テーマは「共生」と「予防」
今回の大綱のテーマは、共生と予防です。認知症の人たちが住みやすい街づくりや認知症という病気への理解と認知症の予防になる施策を2025年までにかけて今回の大綱で決めました。
生活上の困難が生じた場合でも、重症化を予防しつつ、周囲や地域の理解と協力のもと、本人が希望を持って前を向き、力を活かしていくことで極力それを減らし、住み慣れた地域の中で尊厳が守られ、自分らしく暮らし続けることができる社会を目指します。
運動不足の改善、糖尿病や高血圧症等の生活習慣病の予防、社会参加による社会的 孤立の解消や役割の保持等が、認知症の発症を遅らせることができる可能性が示唆されていることを踏まえ、予防に関するエビデンスの収集・普及とともに、通いの場における活動の推進など、正しい知識と理解に基づいた予防を含めた認知症への「備え」 としての取組に重点を置く。
結果として、70 歳代での発症を 10 年間で1歳遅らせる ことを目指します。また、認知症の発症や進行の仕組みの解明、予防法・診断法・治療法 等の研究開発を進めていきます。
5つの柱
今回の大綱では、「共生」・「予防」のテーマのもと、5つの施策を推進していきます。
1.普及啓発・本人発信支援
2.予防
3.医療・ケア・介護サービス・介護者への支援
4.認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援
5.研究開発・産業促進・国際展開
それぞれ各項目について、主な内容をみていきましょう。
1.普及啓発・本人発信支援
認知症は誰もがなりうるということ、そして認知症の人やその家族が自分らしく暮らし続けるためには認知症への社会の理解を深め地域共生社会を目指し、認知症があってもなくても、同じ社会の一員として地域をともに創っていくことを目的とした施策です。
(主な内容)
1.認知症サポーターの養成 (2020年までに、養成数1200万人)
認知症サポーターとは、認知症に関する正しい知識と理解を持って認知症の人や家族を手助ける役割のことをいいます。都道府県や市町村が協賛する全国キャラバン・メイト連絡協議会で養成講座が行われています。
今回の大綱では、スーパーやコンビニ・銀行・駅などの従業員等向けの養成講座の開催の機会の拡大や、学校教育等においても機会を作っていきます。
2.認知症本人大使(希望宣言大使(仮称))の創設
認知症の人本人からの発信の機会が増えるよう、地域で暮らす本人とともに普及啓発に取り組んでいきます。
認知症の人が、自己発信できるような環境を作り、認知症の人やその家族が、またそうでない人達がともに思いを共有できる社会を実現してしきます。
3.相談先の周知
地域包括支援センタ ーや認知症疾患医療センターを含めた認知症に関する相談体制を地域ごとに整備します。またホームページ等を活用した窓口へのアクセス手段についても総合的に整備します。
相談窓口がどこにあるのか認知度が低いので、地域包括支援センタ ーや認知症疾患医療センターの広報を強化していきます。
まとめ
そもそも認知症問題をどこに相談してよいかわからないのが現状としてあります。地域包括支援センターなどの広報周知が必要でしょう。また、同じように認知症サポーターの存在はまだまだ認知度が低いです。街でみることはなかなかありません。これからオレンジのバンドをした認知症サポーターのひとたちが、スーパーや駅などでよく見かけることになるでしょう。
予防
「予防」とは、「認知症にならない」という 意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味です。
認知症予防になるといわれているのは、運動不足の改善、糖尿病や高血圧症等の生活習慣病の予防、社会参加による社会的孤立 の解消や役割の保持等が挙げられます。
(主な内容)
1.運動不足の改善
成人の週1回以上のスポーツ実施率を 65%程度に高める 。
2.住民主体で行う介護予防に資する取組
介護予防に資する「通いの場」への参加率を8%程度に高める。
高齢者等が身近に通うことができる「通いの場」については更に拡充する。また、市民農園や森林空間、市町村で実 施するスポーツ教室、公民館等の社会教育施設における講座や大学の公開講座等、地域住民が幅広く活用できる場も最大限に活用し、認知症予防に資する可能性のある各種活 動を推進する。
3.かかりつけ医、保健師、管理 栄養士等の専門職による健康相談等の活動の推進
高齢者等が身近に通える場所に専門家を配置し、身近に相談できる機会を増やし、早期発見・早期対応、重症化の予防になるように専門家の活動を推進していく。
まとめ
今のところ認知症を治す治療方法は確立されていないということです。効果があると思われるのは日ごろの生活習慣にあるのでしょう。運動や食事、そしてコミュニケーション、現代社会ではどれも不足がちです。スマートフォンは認知症の低下を促進するなどのニュースが過去にありました。役所や公民館・公園などで直接交流できる場があり、医師など管理のもとみんなが体操や運動をしている光景が今後多くなることでしょう。
医療・ケア・介護サービス・介護者への支援
認知症を十分理解し、共有すべき基本理念を徹底し、医療・介護等の質の向 上を図っていく。 また、介護現場の業務効率化や環境改善等を進め、介護人材の確保・定着 を図る。 認知症の人及びその介護者となった家族等が集う認知症カフェや家族教室や家族同士のピア活動等の取組を推進し、家族等の負担軽減を図ることを目的とした施策です。
(主な内容)
1.各機関の連携
地域包括支援センター、かかりつけ医等の地域機関は、関係機関間のネットワークの中で、認知症疾患医療センタ ー等の専門機関と連携し、早期対応できるように情 報提供や支援を行う体制を作る。
スーパーの認知症サポ ーターが、買い物に来た高齢者の様子から認知症の可能性を感じた場合、まずは、温か く見守り、必要な場合はその場でできるサポートを行うことを基本としつつ必要に応じ、 地域包括支援センター等の相談機関と連携する。
2.認知症初期集中支援チームの活動強化
認知症初期集中支援チームとは、市町村が置く専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、観察・評価を行った上で、家族支援等の初期の支援を包括的・集中的に行い、自立生活のサポート を行う機関です。
孤立している状態にある人へ の対応も含め、適切な医療・介護サービス等に速やかにつなぐ取組を強化する。
3.医療従事者の認知症対応力の向上、介護事業の基盤整備
かかりつけ医、歯科医師、薬剤師、看護師等に対する認知症対応力向上 研修、かかりつけ医を適切に支援するる認知症サポート医養成のための研修を実施する。 認知症の人が、それぞれの状況に応じて、適切な介護サービスを利用できるよう、市 町村及び都道府県は、介護保険事業計画及び介護保険事業支援計画を適切に策定し、計画に基づいて介護サービス基盤を整備する。
4.介護者の負担軽減の推進
介護離職を予防するための仕事と介護の両立支援、仕事と介護の両立支援に取り組 む企業への助成金の支給など、介護離職ゼロに向けた職場環境の整備に取り組む。 認知症の人やその家族が地域 の人や専門家と相互に情報を共有し、お互いを理解し合う場である認知症カフェを活用 した取組を推進し地域の実情に応じた方法により普及する。
まとめ
家族で認知症になってしまった人がいた場合、どこに相談してどこの病院や施設へ連れてっていいのかわからないことが多いですね。また関係機関のたらい回しな状況もあったりします。認知症の対策の入り口の一つとして認知症初期集中支援チームがあり、医療や介護、行政や裁判所など各機関同士の連携より深くなることが今後期待されます。
認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援 ・社会参加支援
生活のあらゆる場面で、認知症になってからもできる限り住み慣れた地域で普通に暮らし続けていくための障壁を減らしていく「認知症バ リアフリー」の取組を推進する。また、認知症に関する取組を実施している企業等に対する認証や表彰制度の創設を検討するとともに、認知症バリアフリーな商品・サービス の開発を促す。
(主な内容)
「認知症バリアフリー」の推進
(1)バリアフリーのまちづくりの推進
公共交通施設や建築物等のハード面のバリアフリー化を推進。
(2)移動手段の確保の推進
① 自ら運転しなくても、移動できる手段を確保できるよう、「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」(平成 19 年法律第 59 号) により、地域の取組を推進する。
② 自動運転移動サービスの実証・社会実装を推進する安心して通行できる幅の広い歩道等の整備を推進する
③ 踏切道に取り残された認知症高齢者等の歩行者を救済するため、検知能力の高 い障害物検知装置や非常押しボタンの設置を推進する。
④ 高速道路の逆走事故対策として、分岐部での物理的・視覚的対策、料金所開 口部等の締切等を実施する
(3)住宅の確保の推進
① 見守り等を行うサービス付き高齢者向け住宅の整備を支援する
② 認知症の人を含む高齢者等の住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃 貸住宅(セーフティネット住宅)の登録を推進する
(4)地域支援体制の強化
① 行方不明者については、引き続き厚生労働省ホームページ上の特設サイトの活用により、家族等が地方自治体に保護されている身元不明の認知症高齢者等の情報にアクセス できるようにする
② 認知症サポーターの量的な拡大を図ることに加え、今後は養成するだけでなく、できる範囲で手助けを行うという活動の任意性は維持しつつ、ステップアップ講座を受講し た認知症サポーター等が支援チームを作り、認知症の人やその家族の支援ニーズに合っ た具体的な支援につなげる仕組み(「チームオレンジ」)を地域ごとに構築する。
(5)成年後見制度の利用促進
成年被後見人等の利益や生活の質の向上のための財産利用・身上保護に資する支援が できるよう、成年後見人等に対する意思決定支援の研修の全国的な実施を図る。また、 「任意後見」「補助」「保佐」制度の広報・相談体制の強化や、市町村等による市民後見 人・親族後見人への専門的バックアップ体制の強化を図る。
(6)虐待防止施策の推進
市町村において高齢者の安全の確認や通報等に係る事実確認のための措置を実施する。
地域包括支援センターにおける高齢者虐待防止に関する迅速な対応やネットワークづ くりを行う。
全国の法務局・地方法務局及びその支局における常設の人権相談所及び高齢者施設等 の社会福祉施設や公民館における特設の人権相談所において、高齢者等をめぐる様々 な人権問題について相談に応じる。人権侵害の疑いのある事案を認知した場合は、調 査を行い、事案に応じた適切な措置を講じる。また、人権相談窓口の広報周知を行う。
研究開発・産業促進・国際展開
認知症は未だ発症や進行の仕組みの解明が不十分であり、根本的治療薬や予防法は十分 には確立されていない。そのため、認知症発症や進行の仕組みの解明、予防法、診断法、治療法、リハビリテーション、介護モデル等の研究開発など、様々な病態やステージを対 象に研究開発を進める。
1.認知症の予防、診断、治療、ケア等のための研究
「日本医療研究開発機構(AMED)」 は、日本国内の研究機関等に対し、認知症発症 や進行の仕組みの解明、予防法、診断法、治療法、リハビリテーション、介護モデル等 の研究開発など、様々な病態やステージを対象に研究開発の支援を行う。各研究機関は 自らの事業としても認知症に関する研究開発を進める。
2.産業促進・国際展開
産業界の認知症に関する取組の機運を高め、官民連携・イノベーションの創出・社会 実装を推進する。研究開発の成果及び実践される認知症ケアの進捗等に応じて、「アジア 健康構想」の枠組みも活用し、介護サービス等の国際展開を推進する。世界でも最速で高齢社会に突入した日本の経験を共有し、国際交流を促進する。
まとめ
世界でも最速で高齢社会に突入した日本が、来る2025年問題に向けて5つの施策を策定しました。今後、認知症サポーターの活動は多く見ることができるでしょうし、認知症に関するサービスは増えていくことでしょう。認知症本人がメッセージを自己発信できるという認知症本人大使という制度も考えさせられます。今後大きくなるAI事業自体はこの大綱には言及ありませんでしたが、車の自動運転サービスについては視野にあるようです。人口減少にともなう人手不足に関してはどうでしょうか。医療や介護・福祉サービスの中に外国人の受け入れも進んでいくことになるでしょう。今回はあくまでも認知症というテーマに絞った大綱ですので、それ以外にも社会の問題はたくさんあります。しかし大切なのはお互いが理解し、手を取り合って協力して社会を築いていくことが、いつでも変わらず共通してあるということは言えるでしょう。